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戦記マンガ名作選

零戦

昭和30年代後半から40年代、少年たちの間で戦記ブームが起こっていた。

日中戦争や太平洋戦史に異常に詳しい軍事オタクの子供がいた。今も刊行されている雑誌『丸』を誰かが学校に持ち込んで、皆で回し読みしたりしていた。タミヤ製プラモデルの戦車パットンやチーフテン、それに零戦、戦艦大和などを組み立て、出来上がったばかりの模型の側面に線香の火を当てて、弾痕を模したりしたものだ。撃墜王坂井三郎や源田実が、野球の沢村栄治や川上哲治、大下弘さながら伝説のヒーロー扱いで憧憬の対象となっていた。勇壮な軍歌をいろいろ憶えて口ずさんだりもした。

終戦から15-20年余りがたち、復興への目処と高度経済成長への歩みが確かなものとなりつつあった当時。占領政策の終了を経て表現の自由が確保され、忘れ去りたい悪夢でしかなかった戦争を、追懐も交えて回顧する余裕と雰囲気が、この頃生じていたと見る向きもある。

マンガでも戦記ものがあちこちで連載されていた。とりわけ零戦パイロットをヒーローとした物語が流行った。辻なおきの『0戦はやと』をはじめ、『0戦太郎』『0戦仮面』などの0戦シリーズ。貝塚ひろしの『ゼロ戦レッド』『ゼロ戦行進曲』、他に『大空のちかい』『大空三四郎』など。

ゼロ戦ブームの中にあって、幻の名機「紫電」を軸に据えた異色作、ちばてつやの『紫電改のタカ』が秀作として記憶される。今も復刻版を懐かしく読んでいるおやじ世代が多いようだ。ちばてつやの描く主人公のキャラクターは、『ハリスの旋風』『おれは鉄平』『のたり松太郎』などに見られる悪ガキ、腕白タイプと、『ちかいの魔球』の二宮光に象徴される純情・繊細派とに分かれるが、『紫電改のタカ』の滝城太郎は典型的な純情・生真面目タイプだった。

少年飛行兵の滝は、自ら編み出した飛行術・戦法を駆使し、撃墜王として天才的な技量を発揮する。ライバルの敵軍パイロットと腕を競い、薄氷の勝利を掴み部隊に貢献する。同時に、可憐な幼馴染の少女や優しい母親との束の間の交流や別れの場面も描かれる。滝の真面目で純粋な性格は、やがて戦争の悲劇と理不尽に思い悩むようになる。運命に翻弄されながら、特攻隊員となって死出の突撃飛行へ赴く途上で物語はあっさり、しかし切ないラストを迎える。

少年サンデーに連載されていた『あかつき戦闘隊』もヒューマンな戦争マンガとして人気を博した。南海の孤島を舞台に、残留日本部隊と敵軍との凄絶な戦闘の中で上官と部下、戦友間の友情をテーマとしたが、このマンガに関しては連載中、ちょっとした事件が発生している。

少年サンデー編集部が、マンガの人気に乗じて昭和43年3月24日号で懸賞プレゼントを企画したのだが、その賞品内容が海軍兵学校の制服であったり、アメリカ軍の鉄カブトやピストル、軍旗等の軍事コレクションだったために、児童文学者や教育者が「児童文化の軍国主義阻止」を唱えて抗議運動を起こしたのだった。「あかつき戦闘隊事件」と俗に呼ばれているが、結局うやむやのままに収束した。考えてみると、当時は60年安保から70年安保の狭間で、反戦運動華やかなりし社会状況。その最中で少年たちに戦記ブームが広がっていたことが面白い。

References: 戦記マンガ一覧戦後マンガ史ノート

Posted: 14 May 2011