かつてアメリカに「ベイヨンの流血男」と異名をとった白人のヘビー級ボクサーがいた。
チャック・ウェプナーである。ニューヨーク州ベイヨンのスラム街に育ち、刑務所服役中にボクシングを覚えた。出所後、27歳でプロデビューするが、新進気鋭のジョージ・フォアマンに1Rノックアウトで倒され、ソニー・リストンの最後の対戦相手としてまみえるも、10RTKO負けを喫するというパッとしない3流ボクサーだった。
そのウェプナーが、「キンシャサの奇跡」でフォアマンを破って王座に返り咲いたモハメド・アリの気まぐれにより、初防衛戦の相手に選ばれた。圧倒的不利の予想は当然ながら、ウェプナーにとって凄絶な惨劇と化す展開が確実視されていた。
ところがフタを開けてみれば、あにはからんや、ウェプナーはしたたる流血をものともせず果敢に前に出る。そして余裕綽々で舞うアリに対し、9R、ウェプナーは右ボディーブローでダウンを奪う。途端、判官びいきのファンからの熱烈な声援がウェプナーにこだまするようになる。勇気ある善戦を続けたウェプナーだったが、遂に15Rで力尽きる。
このアリ‐ウェプナー戦をテレビで見ていた若き日のシルヴェスター・スターローンが、ひらめきを得て3日で書き上げたのが映画『ロッキー』の脚本だった。『ロッキー』(パート1)は今もボクシング映画の最高傑作との呼び声が高い。1976年のアカデミー賞10部門にノミネートされ、最優秀作品賞、監督賞を獲得した。
スタローン演ずるロッキーで目を見張ったのは、トレーニング風景やファイトシーンの圧倒的迫力だった。こうしたリアリティは、特にボクシングファンがボクシング映画を観るにあたって必須の要素といえよう。いくらドラマとして優れていても、ボクシングシーンそのものにぎこちなさが残れば、興趣は半減してしまう。
それがこの映画では、ギリシャ彫刻の様な表情と鍛えあげられた肉体を備えたスタローンの類稀な運動能力がスクリーンにほとばしっていた。片腕での腕立て伏せ、ぶらさがる生肉をサンドバッグに見立てた練習シーン、フィラデルフィア博物館前の階段を全速力で駆け上がって行く光景等々に、バックに流れるテーマ音楽と相俟って、鳥肌立つような興奮を掻き立てられ、なんだか人生にヤル気が出たりしたものである。対照的にエイドリアンとの淡い恋物語が甘酸っぱい雰囲気を醸し出していた。
全体の筋立てとしては、あまり厚みのない極めてシンプルなお伽話であったが、無名だったスタローンがこの映画を契機としてその後ハリウッドの大スターに成長し、アメリカン・ドリームを自ら体現してみせたことで、リアリティに貫かれた作品となった。
Posted: 23 July 2011
References: Best Boxing Movies: 15 Films That Pack a Real Punch
14 Best Boxing Movies
Chuck Wepner
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