1920年9月、アメリカ野球界を震撼させる事件が起こった。シカゴ・ホワイトソックスの8人の現役プレイヤーが、前年秋のワールドシリーズで、八百長を行ったことを認めたのだ(内ひとりは実際には加担していないが、その事実を知りながら隠していた)。世にいう「ブラックソックス事件」である。連邦大陪審は8人を情状酌量して無罪放免したものの、就任したばかりのMLBの初代コミッショナー ケネソー・マウンテン・ランディスは、8人を球界から永久追放とする厳しい処分を下した。
シカゴ・ホワイトソックスとシンシナティ・レッズ
の間で争われた1919年のワールドシリーズは、対戦前から、ギャングの暗躍によってレッズ勝利の八百長が仕組まれているとのまことしやかな噂が流れていた。それを信じる者は少なかったが、ニューヨーク・イブニング・ポスト紙の記者フレッド・リーブは、ホワイトソックス有利という大方の予想に反し、戦前の賭け率がレッズに傾いていたことを知るに及び、不穏な気配を感じ取っていた。
初戦、ホワイトソックスのエース エディー・シコットの乱調でレッズが9-1で勝利を握ると、リーブの懸念は増幅した。試合後、ホワイトソックスの捕手レイ・ショーク(八百長に加わらなかった)が、「シコットは自分のサインを無視して投げた」と発言したことから、他の野球記者の間でも、にわかに八百長疑惑が広がっていった。途中、成功報酬が約束通り支払われなかったことに憤ったホワイトソックスの選手たちが「本気」を出しかけたが、ギャングの脅迫によって、最終的に筋書き通りレッズの優勝でシリーズは決着した。
ホワイトソックスのレギュラーメンバーの多くが八百長に手を染めた背景には、選手への待遇の劣悪さがあった。日頃からチーム運営に対する不満が選手たちに渦巻いていたのだった。
さらに追放されたメンバーのひとり、「シューレス・ジョー・ジャクソン」の場合、彼自身が貧しい境遇に育ち、満足な教育を受けられなかったことによる世間的常識の欠如や人のよさが、図らずも八百長騒動に巻き込まれる結果を招いてしまったといわれる。メジャー史上歴代3位の通算打率を誇り、田舎育ちの純朴な性格をファンに愛されながら、スキャンダルによってプレイヤーとして円熟の只中(彼の最終シーズンの打率は.382!)に、球界から追放を余儀なくされた。「嘘だと言ってよ、ジョー!」のフレーズとともに、悲運の名選手として名を残すことになった。
このジャクソンをモチーフとして作られた野球映画の名作が、『フィールド・オブ・ドリームス』である。ケビン・コスナー演じるアイオワの農場主レイ・キンセラは、「それを作れば彼が来る」というお告げを自らの内に聴き、トウモロコシ畑を野球場に変えてしまう驚きの挙に出る。周囲は冷たい視線を注ぐが、妻と娘は温かく見守る。果たしてそこに、幻か現実か、シューレス・ジョーをはじめ、永久追放となった8人が現れ、嬉々としてプレーし始めるのだ。
人生のやり直し、夢の再生をテーマとしながら、ミステリアス、オカルトチックな雰囲気も漂う味わい深いファンタジー作品となっている。それにしても「フィールド・オブ・ドリームス」という、野球(場)が人々の心にもたらす果てなき夢をイメージさせるタイトルが秀逸だ。
ブラックソックス事件後、地に落ちた米球界を救ったのが、ベーブ・ルースの登場だった。そして、ルースとともにニューヨーク・ヤンキースの黄金時代を彩ったのが、「鉄人」ルー・ゲーリッグだった。
デビュー当初のゲーリッグは守備が不得手で、多くの評論家の非難を浴びたが、前出のフレッド・リーブだけは、その将来を嘱望する記事を書き続けた。やがてスラッガーとして本領を発揮し、2,130試合連続出場の大記録を達成するも、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS-後にゲーリッグ病とも呼ばれた)に冒されていることが判明し、突然の引退を強いられる。そして引退からわずか2年後、38歳の誕生日を目前に亡くなった。
放蕩・奔放な私生活を送ったルースと対照的に、ゲーリッグは人格高潔で人々の敬愛を集めたが、このゲーリックの生涯と夫婦愛を忠実に辿り、野球映画(野球シーンは少ないのだが)としてのみならず、映画史上の名作として評判高いのが、ゲーリー・クーパー主演の『打撃王(Pride of the Yankees)』である。
1932年7月4日、ヤンキースタジアムで催された彼の引退式には何と61,808人の大観衆が駆けつけ、ゲーリッグとの別れを惜しんだ。ゲーリッグは"Today, I consider myself the luckiest man on the face of the earth"と涙に咽びながら感動的なスピーチを残したが、その場面は、『打撃王』でもラストのクライマックスシーンとして描かれている。ちなみに、ベーブ・ルースが本人役で出演している。世界の王貞治も、8歳のときに兄に連れられてこの映画を観て以来、ゲーリッグをずっと尊敬し目標とするようになったという。
Posted: 17 June 2011
References: Baseball: 100 Classic Moments in the History of the Game
The Best Baseball Movies of All Time
Joe JACKSON(ジョー・ジャクソン)
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